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Dr.スギヌマのITランダム・ウォーカー:自動運転と乗り心地の意外な関係

Dr.スギヌマのITランダム・ウォーカー:自動運転と乗り心地の意外な関係


「Dr.スギヌマのITランダム・ウォーカー:運転しないと、乗り心地が気になる!」(2018年11月15日)で、「乗り心地」に焦点を当てた。乗り心地の改善には色々な要素があるが、自動運転技術の進歩で、乗り心地はもっと良くなりそうだ。なんと自動運転の車両が一般化する前に、効果が出てきそうだ。なぜ?

全然違う乗り心地?

 それは、まるで滑るような感触だった。久しぶりに乗ったタクシー、行き先を告げると車は、まさに「滑り出し」た。おもわず「おおっ!」と声を上げると、運転手さんが「どうされました」と尋ねてきた。

 「いや、余りにも素晴らしい乗り心地で」

 「ありがとうございます。でも、13年ものの車ですよ。大事には乗っていますが」

 「いえいえ、素晴らしい。滑るような乗り心地です」

 まさに、クルマは滑っていた。大きな要素は、エンジンの回転が滑らかなことだろう。特に回転を上げた様子は無くても、無理なく力を出している。そして、回転自体の滑らかさ。流石に、6気筒エンジンである。

 日頃乗っているハイブリッド車(HEV)は、環境性能や燃費は素晴らしい(写真1)。しかし、残念ながら「滑るような」乗り心地には達していない。問題の大きな要素を占めるのが、ハイブリッドシステムの動作だ。電池への充電が始まるとエンジンからタイヤに伝わる力がガクッと落ちるのを感じる。走行中に「あれれ?」という感じで力が抜けるのだ。ハイブリッドシステムは、日々進歩しているから、このような現象も昔話となる日は近いだろう。

クルマにとって安全性、環境性は根幹の要素として重要だが、運動性能や静寂性も商品として忘れてはならない。1970年代は、まず環境対応が求められた(「自動車技術展2017」にて)【写真1】クルマにとって安全性、環境性は根幹の要素として重要だが、運動性能や静寂性も商品として忘れてはならない。
1970年代は、まず環境対応が求められた(「自動車技術展2017」にて)

 今から15年ほど前、アメリカの恩師がHEVを購入した。低燃費で非常に喜んでいたが、ある日奇怪なことが起きた。フリーウェイを走行中、突然時速30マイル以上出せなくなったのだ。彼が走る車線は渋滞し、迷惑行為を疑ってハイウェイパトロールが出動する騒ぎとなった。結局「故障」扱いで、警告(Fix-itチケットと呼ばれる修理命令)で済んだようだ。パトカーに先導されてヨロヨロとディーラーに走り込んだが、結局異常は見つからず、「コンピュータのグリッチ(一時的な不調)」ということになったようだ。先生は「どんなに、Gas Pedal(アクセル)を踏んでも時速30マイル以上でなくなったんだよ」と笑っていた。

 一定速度以上出せなくなるのは、もしかしたら、センサーから正しい情報が伝わらなかったのかも知れない。一方で、最近のHEVでアクセルを踏んでいるのに力が抜けるのは、それだけ発電機が力を喰うためだろうか。発電に力も力が必要ということだ。

滑らかさはここにも

 そういえば、滑らかな乗り心地に驚いたのは、自動車だけではない。鉄道でも、あった。ドイツで、初めて高速列車ICEに乗ったとき、滑るような発車を感じた(写真2)

ドイツ鉄道の高速列車「ICE」。写真は、ICE2の機関車部分。一般の線路時速160km以上で走行する【写真2】ドイツ鉄道の高速列車「ICE」。写真は、ICE2の機関車部分。一般の線路時速160km以上で走行する

ICEには各種あるが、乗ったのはICE2なる形式だ。ICE1とICE2は、機関車が引っ張る動力集中方式(ICE1は、両端に機関車がある)を採っている。日本では、ついこの間まで「ブルートレイン」との愛称で呼ばれた寝台列車があったが、これは機関車が引っ張る動力集中方式だ。現在運用中の定期寝台列車は「サンライズ瀬戸」や「サンライズ出雲」だが、これらは電車方式、つまり動力分散方式だ(写真3)

DBの車掌さんが掲げる合図板は、以前は昼間は自ら発光しない蛍光板を使用した(2008年 Hannover Messe /Laatzen駅)【写真3】(a)DBの車掌さんが掲げる合図板は、以前は昼間は自ら発光しない蛍光板を使用した(2008年 Hannover Messe /Laatzen駅)

【写真5】(a)CeBIT2009に登場した「電子牽引棒(トウ・バー)」のデモ。物理的につながなくても、前車を後者が追従する。(b)後続車は完全な無人で運転席窓は覆っている。自動運転技術は、乗り心地の改良に使えそうだ。【写真3】 (b)最近は、自発光の合図灯になっている(2018年Hannover 中央駅)

 動力分散方式の何が良いかって「静かさ」、「滑らかさ」だ。車両にモーターがないのだから、それは静かになる。JRの在来線では、グリーン車にはモーターを置かないものが多いが、この形式の客車は静かだ。ただ、他の車両のモーター音が響くような感もあり、「静か」とまでは言えないような気がする。

 それに比べて、ドイツのICE(動力分散型のICE3は除く)は、全客車にモーターがないので極めて静かだ。また、軌道が広いせいか、安定感もよい。JRの首都圏在来線に乗っていると、ポイント通過時でなくても「揺れる」などというものではなく、左右に「振られる」ように感じることがある。ドイツでICEに乗っていて振られるのは、左右より前後、つまりブレーキによるものが多い。軌道が広いせいか、保線が良いのかは分からないが、「滑るように走り、揺れない」と感じる。専用軌道でなくても時速160km以上出すICEに限らず、ワンランク下のICでも同じ。気持ちの良い旅となる(写真4)

「銀河鉄道999」のメーテルがいた? Hannover Messe / Laatzen駅の駅員さん(2006年)【写真4】「銀河鉄道999」のメーテルがいた? Hannover Messe / Laatzen駅の駅員さん(2006年)

研究開発に自動運転を

 今回の本題は、鉄道ではなく自動車。自動車メーカーは、動力性能の開発はもちろんのこと、乗り心地に関しても膨大な研究を行っている。仕向地ごとの道路状況の違いも把握して、輸出先で受け入れられる乗り心地を開発している。

 乗り心地の研究のためには、例えば、段差に乗り上げるとか、スピードバンプ(Speed Bump)に突っ込むといったことから、僅かに顔を出した石を踏むまで、色々な事が行われる。しかも、地域毎の典型的な状況を考慮するという。ところが、メーカーの人に聞くと、開発はなかなか難しいらしい。つまり、設定した条件で目標である段差や、スピードバンプや、石に突っ込むのが大変なのだ。もちろん、専門の運転担当者がいるそうだが「人がやることだから、精度が出ない」という。しかも、単純な作業だけに、専門の運転要員に頼むのも気が引ける。確かに、一日中、段差めがけて同じ条件で車を走らせるのは大変だろう。

 もし、高精度のハンドリングが可能な自動運転車両ができたら、このような研究開発に大きな助けになるのは間違いない。角度を変えて突っ込む、速度を変えて突っ込む、といった条件を変えた実験が容易になる。しかも、このための自動運転車は、公道を走る機能を持たなくて良い。歩行者や自転車の動きを予測する必要は無い。ひたすら、設定された条件を実現するように走り抜ければよいのだ(写真5)

CeBIT2009に登場した「電子牽引棒(トウ・バー)」のデモ。物理的につながなくても、前車を後者が追従する【写真5】(a)CeBIT2009に登場した「電子牽引棒(トウ・バー)」のデモ。物理的につながなくても、前車を後者が追従する

後続車は完全な無人で運転席窓は覆っている。自動運転技術は、乗り心地の改良に使えそうだ【写真5】(b)後続車は完全な無人で運転席窓は覆っている。自動運転技術は、乗り心地の改良に使えそうだ

 このような自動運転ができれば、コーナリングの特性も大幅に改善されるだろう。今までより、試せる事柄が大幅に増える。夜の間に自動でデータを取っておくことだって出来るかも知れない。試行の回数が大幅に増えるわけで、現状から比べるとデータ量は飛躍的に増えるだろう。

 自動運転というと、街中を無人でやってきた車両が、人を乗せて連れて行ってくれるイメージがある。しかし、その手前に「はたらく自動運転車」が出てきてもよいはずだ。そして、そのような自動運転車は、製品を支えてくれるものになりそうだ。クルマの乗り心地は、もっと良くなるに違いない。

ライタープロフィール

杉沼浩司(すぎぬま こうじ)
日本大学生産工学部 講師(非常勤)/映像新聞 論説委員
カリフォルニア大学アーバイン校Ph.D.(電気・計算機工学)
いくつかの起業の後、ソニー(株)にて研究開発を担当。現在は、旅する計算機屋として活動中。

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