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Dr.スギヌマのITランダム・ウォーカー:くらしの中にAI
Dr.スギヌマのITランダム・ウォーカー:くらしの中にAI


 「AIで要らなくなる仕事」や「AIが人間を追い抜く」といった話は、一時よりも静かになったとはいえ、まだまだよく聞こえてくる。現在、実用化されているAIは、とてもそのようなレベルではなく、小脳的な瞬間的な反応をするのがせいぜいだ。もちろん、研究レベルでは、より高度なAIを目指して努力が続けられているが、産業上利用できるAIは「瞬発力が勝負」となる。そんなAIの中心的アルゴリズムであるディープラーニング(深層学習)は、実行時の負荷が大きかった。これまでは、GPUを並べたAIエンジンが必要かと思われてきた。しかし、小さな組込用SoC(システムLSI)にも入れられる、AI用演算ユニットが登場し始めた。もうAIを動かすのに大規模な装置は不要になる。色々な装置にAI機能が取り込まれるだろう。

HotChips の魅力

 「HotChips」という名の学会がある。「チップ」といっても、ポテトチップとは関係ない。チップとは、半導体のことだ。「ホット」は、「話題の」との意味があるが、同時に「高性能」を意味する。この学会は、「高性能プロセッサ」の専門学会だ。

 1989年に始まったHotChipsは、シリコンバレーの著名なエンジニアDr. Robert G. Stewartが生み出した(写真1)。Stewart博士は、IEEE Computer Societyで多くの標準化を推進した人物であり、IEEE Micro誌の創刊にも尽力した。彼が、1988年の秋に友人との会話から生み出したものがHotChipsだ。シリコンバレーで主催されるマイクロプロセッサ関連の学会が無いことを悔やんだStewart博士が、自ら作り出したと語っていた。「無いなら作る」を実践したものだ。開始以来HotChipsは「シリコンバレーにおける、シリコンバレーのための学会」とされている。もちろん、発表者、参加者は世界中からやってくる。でも、開催地は常にシリコンバレーだ。長らく、Stanford大学の施設が使われてきたが、最近は、DeAnza CollegeのFlint Center for the Performing Artsが会場に使われている(写真2)

数々の規格をまとめ、コンピュータの世界に大きな影響を与えたHotChipsの創設者Robert G. Stewart博士。16歳でUniversity of Illinoisに入学した天才でもある。日本に駐留経験がある。(2008年撮影)【写真1】数々の規格をまとめ、コンピュータの世界に大きな影響を与えたHotChipsの創設者Robert G. Stewart博士。16歳でUniversity of Illinoisに入学した天才でもある。日本に駐留経験がある。(2008年撮影)

HotChips会場となっているFlint Centerは、Apple本社に近いCupertino, Californiaにある。【写真2】HotChips会場となっているFlint Centerは、Apple本社に近いCupertino, Californiaにある。

 HotChipsでは、性能指向のプロセッサが発表されてきている。有名な米Intel社のPentiumはここでデビューした。今も、Intelや米AMD社の新プロセッサはもちろん、IBMのZシリーズ(メインフレーム)の中核半導体や、POWERチップ、NVIDIAやXilinxのチップなどが登場する。一方、省電力型のプロセッサもHotChipsにやってくる。英ARM社のARM600は、HotChips IVで完成報告がなされた(写真3)。「なかなか面白い石が出てきた」というのが当時の感想で、交流があった日本のメーカーに「すぐに資本を入れるべし」と進言した。最近、ARMを傘下に収めた企業があるが、誕生時に買ってこそ真の投資家である。有名になってから資本を入れるのは、後追いとみられても仕方が無い。

HotChips IV(1992年)に登場したARM600の発表資料。Apple IIで使用された6502の代替を目指す、とある。ARM610は初期のPDAであるNewton Message Pad 100(1993年)に採用された。【写真3】HotChips IV(1992年)に登場したARM600の発表資料。Apple IIで使用された6502の代替を目指す、とある。ARM610は初期のPDAであるNewton Message Pad 100(1993年)に採用された。

 HotChipsは、プロセッサを専門とする人々を惹き付ける魅力がある。筆者も、HotChipsの魅力に抗しがたく、博士論文提出の直前にもかかわらず参加した。幸い、指導教官もHotChipsにやってきていたので、休憩時間毎に会場横の木陰で論文を前に議論を続けたことを覚えている。HotChipsには、長年の参加者も多いが、近年も新たな参加者を引きつけている。今年は、記録的な人数が参加したとのことで、ランチの行列は過去に例を見ないほど長くなった(写真4)

夏に開催されたHotChips 30には、多くの人が訪れた。学会といっても大変にアットホームな雰囲気で、参加者は新しいプロセッサに心躍らせている。【写真4】夏に開催されたHotChips 30には、多くの人が訪れた。学会といっても大変にアットホームな雰囲気で、参加者は新しいプロセッサに心躍らせている。

 高いプロセッサ能力を要することから、AIはHotChipsでも大きな話題になっている。ディープラーニングに関して、ディープな半日講座が開催されたのは2015年のHotChips 27だった。2016年のHotChips 28において、AI処理LSIをUSBデバイスに収め「PCに挿せばAI処理が高速化」と銘打っていた米Movidius社は、直後の9月にIntelに吸収された。高性能プロセッサの世界にも、色々な形でAI(とAI処理)の足音が聞こえていた。そして今年、ついにAI処理で長く待たれた発表があった。

専用ユニット

 AI処理は、学習と実行(推論と呼ぶこともある)の2つに大別される。組込用SoCで問題になるのは実行の方だ。学習は、事前に強力な機器を使って行えるから問題ない。

 以前は、ディープラーニングで学習した結果を実行する際に、高精度の浮動小数点数演算(浮動小数点数演算の規格であるIEEE754を生み出したのもStewart博士である)が必要と思われていた。ところが、最近の研究で、より簡略化した演算器、例えば8ビットの整数演算でも正確度をほとんど減じることなく処理できることが判明した。これは、組込用SoCに追い風だ。小さな回路で処理できることを意味する。

 これまで、英Imagination Technologies社やスイスのST Microelectronics社が組込用SoC向けのAI処理ユニットを発表していた(写真5)。特に、Imagination Technologiesは、25MHz程度のクロックでもリアルタイムの画像判断ができる強力なユニットを開発している。これは、物理的な装置として販売されるのではなく、SoCを設計する企業に、設計図(IPコア)が売り出される。ある会社の名前がついたSoCであっても、内部のAIユニットはImagination Technologies製、ということになる。実は、このような「設計図売り」は、半導体の世界では当たり前になっている。CPU本体の販売で最大手は前出のARMだ。現在のARMはハードウェアは売らず、設計図を半導体メーカーに販売している。

ST Microsystemsは、ディープラーニング、特に畳み込みニューラルネットワーク(CNN)に対応したユニットを搭載したSoCを公開している(MWC2018にて撮影)【写真5】ST Microsystemsは、ディープラーニング、特に畳み込みニューラルネットワーク(CNN)に対応したユニットを搭載したSoCを公開している。(MWC2018にて撮影)

 今回のHotChipsでは、そのARMが自社製のAIユニットを発表した(写真6)。これまで、AI機能をSoCに組み込みたかった企業は、IPコアを調達していた。調達先の一つとしてARMが増えることになるが、もちろん「ARM純正」としてのメリットもあることだろう。また、AIユニット毎に得意分野が若干異なる可能性が考えられる。設計するSoCの応用分野に適合したAIユニットを選択できるようになる。

HotChips 30 におけるARM社の発表。「ARMの第1世代機械学習プロセッサ」と題されている。このプロセッサもCNNへの対応をうたっている。【写真6】HotChips 30 におけるARM社の発表。「ARMの第1世代機械学習プロセッサ」と題されている。このプロセッサもCNNへの対応をうたっている。

楽しみな家電製品

 一般的なPCのクロック周波数は2.5GHzから3.5GHz程度だが、組み込み用はその10分の1から100分の一が中心となる。消費電力を抑える必要があるし、PCほど重い処理を要さない場合も多かった。しかし、AIは実行とは言えかなりの処理量となる。ハードウェアの支援がないと実現は難しかっただろう。

 AIユニットがついたことで、多くの家電製品にPC並みかそれ以上のAI処理能力がもたらされる。声を聞き分けたり、顔を見分けたり、といったことはもちろん、鼻歌の歌い方で誰であるかを認識するといったこともできるだろう。HDDレコーダで使用すれば、出演者検索ができそうだ。

 現在のAI機能だと、このような認識や「好みへの適合」、「火加減の調整」、「異常検出」といった分野に使われそうだ。すべての処理を肩代わりしてくれるわけでは無いが、少し手伝ってくれる。そんなAIでも有り難い。恐らく、2020年以降に登場する家電製品は、これらAI機能内蔵のSoCが搭載されて、より気の利く装置になってゆくだろう。AIを上手に使った家電製品がもうすぐやってくる。

ライタープロフィール

杉沼浩司(すぎぬま こうじ)
日本大学生産工学部 講師(非常勤)/映像新聞 論説委員
カリフォルニア大学アーバイン校Ph.D.(電気・計算機工学)
いくつかの起業の後、ソニー(株)にて研究開発を担当。現在は、旅する計算機屋として活動中。

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