ハワイ・オアフ島の北岸にノースショア(North Shore)と呼ばれる地域があり、サーフィンの聖地と言われている。残念ながら、サーフィンに縁がないため、その波がいかに素晴らしいものか体感したことはないが、美しい海がひろがるこの地は、いつ訪れても癒される(写真1)。何度目かの訪問で、ハレイワ(Haleiwa)の街にて「世界一美味しい」(筆者主観)ハンバーガーに出会い、ハレイワ詣でが始まった。メインランドからホノルルに飛び、レンタカを駆ってハレイワに行き、お目当てのバーガーにかぶりついてからホノルルで所用をこなし、翌朝の日本行きで帰国する、といった「ハンバーガー・ストップオーバー」を行っていたこともあった。
【写真1】沖合上空から見たノースショア(2006年撮影)
このバーガーのためなら、インターステート・ハイウェイ「H2」を走ってハレイワに行くのは全く苦では無かった。そのうち、ホノルル(Honolulu)の街に、このハンバーガーショップができたため、ハレイワに赴くこと無く「世界一」のバーガーと再会できるようになったのは嬉しい(現在は、ホノルル店は無い)。更には、このハンバーガーを日本でも食べられるようになり「血中バーガー濃度」の薄れを感じたら補充できるようになった。
ハンバーガーがアメリカの代表的ファストフードであるとすると、日本の代表的な「ファストフード」は牛丼だろう。寿司は、最初はファストフードとして生まれたと聞くが、現在は専門店による高級化、回転寿司店によるファミリー化、そしてスーパーの持ち帰りに代表される中食化、と多極化しており、一様に「ファストフード」と言い切れなくなった。これは素晴らしい進化だが、ファストフード代表の座は牛丼に譲るように思える。その牛丼、日本のチェーン店がアメリカ上陸を果たしているが、出される「ビーフ・ボウル」の様子は日本とかなり異なる。寿司と同じく、状況に合わせて、巧みに姿を変えたのかも知れない。
一方、ハンバーガーは、ブランドを前面に押し立て世界展開を行ったためか、同一メニュー化が徹底している。アメリカのハンバーガーチェーンの店舗にドイツで入っても、フランスで入っても、主力メニューは同じだ。見事なまでの規格化をなしとげている。もちろん、各国ごとの嗜好の違いへの吸収策は用意されていると思えるが、目に付くのは「どこも同じ」である。旅をする側にとっては、これは安心感に通ずる。
スペインのカタルーニャ州(カタロニア州)は、スペインの中でも独自の文化を持つという。空港に行くと、カタルーニャ語、スペイン語、英語の3言語で案内が掲出されている(写真2, 3)。料理も独特のものがあり、特にバルセロナ(Barcelona)地域は港町であるだけに、塩気の効いた魚介類が多いと教わった。バルセロナの夕食のスタートは遅く、レストランでゆっくり食事を楽しむとも聞く。すばらしい文化であり、是非とも堪能したいところだが、展示会で訪問しているとなかなか時間が自由にならない。そんな時、駆け込むのはやはりファストフード、特に、名前に覚えのあるチェーンとなる。
【写真2】バルセロナ国際空港(BCN)の案内表示は3言語(カタルーニャ語、スペイン語、英語)表示となっている
【写真3】バルセロナの郵便ポストは、スペイン語(上)、カタルーニャ語(下)の2言語表示だった
バルセロナのある地下鉄駅は、スペイン国鉄(Renfe)駅の地下にある。地下鉄から階段を上ってくると、香ばしいフライドポテトの香りがファストフードハンバーガー店へ旅人を誘う。お店は、日本と同じデザイン。ただし、「注文用キオスク」がいくつもあることが目を引く。タッチ式のディスプレイで注文を決め、クレジットカード決済までキオスクで行える。注文が済むと、番号札がプリントされるので、この番号が呼ばれるのを待てば良い。カタルーニャ語で数字をどう読むかは知らなかったが、なんとか自分の番号を聞き分けられた。このキオスク、多言語対応になっており、最初に使用言語を選ぶ。カタルーニャ語とスペイン語のアイコンが最も大きく、画面の中央にある。画面下には、英語、フランス語、オランダ語、イタリア語のアイコンがあった(写真4)。これならば、店舗のスタッフに多言語対応を求めなくても、ほとんどの用件は機械が応じてくれる。
【写真4】キオスクの言語選択ページ。残念ながら日本語は無かった(2016年撮影)
実は、このキオスク、最初に見掛けたのは2015年にフランスに行ったときだった(写真5)。フランスの店舗では、フランス語と英語のアイコンが大きかった。他に、欧州各地の言語が、小さなアイコンで表示され選択できる。現地の言葉に通じていなくても、キオスクに助けられなんとかサバイバルできた。
【写真5】ハンバーガー注文用キオスク。ここでメニューを見ながら商品を選択し、
カードでの支払まで終えられる。プリントされた"受け取り票"を持って待っていれば、
番号で呼び出される(2015年にフランス・ボルドーにて)
このような「発注システム」は、更なる進化が見込まれる。ゆくゆくは、キオスクを置くのではなく、持参したスマートフォンでメニューを選ぶようになるだろう。もちろん、支払はスマートフォンに内蔵された電子マネー方式を使うのだ。既に、この方式への移行を表明しているファストフード・チェーンもある。日本では、回転寿司店や居酒屋で、タブレット的な装置を用いた注文システムがある。これが、顧客が持参するスマートフォン・タブレットに置き換われば、店舗の設備投資負担は緩和される。少し前に、ビジネスの世界でBYOD(Bring Your Own Device)が流行語になったが、ファストフードやファミリーレストランの世界でBYODが始まりそうだ。
ファミリーレストランが増えてきた頃、各レストランのメニューを自家用車内に備えている友人がいた。彼の車に乗ると、到着までに注文メニューを決めておくことができた。「連絡手段があればすぐに食べられるけど、どうやって連絡するかね」などと話していたが、今やスマートフォンが解決してくれそうだ。
海外での取材、視察でお世話になった食事は、どこでも手に入るハンバーガーだ。「どこでも」とは「ユビキタス」とも表現する。世界の各地で見慣れたメニューに行き当たるユビキタスフードは、ハンバーガーといえる。スマートフォンとバーガーというユビキタス同士結びついて、どこからでも注文でき、どこでも受け取れる、そんな「ファストフードのユビキタス化」が実現する日が待ち遠しい。
杉沼浩司(すぎぬま こうじ)
日本大学生産工学部 講師(非常勤)/映像新聞 論説委員
カリフォルニア大学アーバイン校Ph.D.(電気・計算機工学)
いくつかの起業の後、ソニー(株)にて研究開発を担当。現在は、旅する計算機屋として活動中。