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Dr.スギヌマのITランダム・ウォーカー:入電なし
Dr.スギヌマのITランダム・ウォーカー:入電なし


 子どもの頃、小学校の理科の宿題で、ラジオで気象通報を聞き白地図に天気図を書き込む、というものがあった。各地の観測点から、風向風力天候気圧そして温度が送られてくる。この情報自体は、ある場所におけるデータだが、理科が得意な先生の手に掛かると、そこから前線の姿が現れ、天気の移り変わりまで見えてきた。

 小学校低学年では、天気図に描かれたこと以上のことは分からないが、それでも日本の周囲各地の天気を知ることが楽しく、NHKラジオ第2放送で毎日午後4時(当時は、午前、午後、夜間の3回あったが、現在は午後4時のみ)に流れる気象通報を心待ちにした。

入電なし

 気象通報には、20分間が割り当てられている。ここで、各地の観測結果が読み上げられる(写真1)。その中で、ある時「入電なし」という言葉に遭遇した。外国の地名に続いてである。気象情報のような重要な情報が伝わらないとは、よほどの事に違いない、と考え始めたのがいけなかった。その外国の場所がどこであったかは覚えていないが、その時、頭の中では巨大な怪獣が津波を伴って島に上陸し、人々は逃げ惑い、測候所の通信士は電鍵を叩いてモールス符号で緊急通信を行う、というシーンが展開されてしまった。

00004_image01.jpg【写真1】気象通報受信用の天気図用紙が販売されている

 翌日、ドキドキしながら気象通報を聴取すると、昨日、妄想の中で怪獣に襲われた観測点からは、何事も無かったように情報が送られてきていて、こちらもホットするのであった。

 後で、場所を確かめてみると、そこは南海の小島ではなく、アジア大陸のある場所だった(写真2)。測候所、通信途絶、というお題が与えられると、すぐに「南海の小島」「怪獣」とつながるのは、当時の怪獣映画が人口に膾炙(かいしゃ)していたからであろう。その後、件の大陸の観測点で「入電なし」を聞くと、今度は大地からモクモクと土煙が上がり、そこから現れた怪獣に人々が逃げ惑う妄想が展開された。どうも怪獣映画から逃れられないようだ。

00004_image02.jpg【写真2】気象通報では、国内のみならず、日本周辺の広い地域、海域からの天候情報が読み上げられる。
小学生にとって、海外の地名は聞くだけでワクワクした

衛星受信は大変だった

 気象情報とは、軍事情報であり、戦時中は天気予報の公表は禁止されたと聞く。人工衛星も、テレビカメラを積んだ最も初期のものは気象衛星だが、これは純粋な気象情報のみならず、軍事用の気象情報を得る目的もあった。そこで写された画像の質の高さから、テレビを利用した偵察に利用できると判明し、フィルム利用の偵察衛星と並行してテレビ型の偵察衛星の開発に進んだ。1960年頃の事である。

 今でこそ、気象衛星というと静止衛星「ひまわり」が知られているが、この衛星を持つまでは、日本は米国の周回型の気象衛星を利用していた。最初に記憶にあるのは「エッサ(ESSA)」で、その後「ノア(NOAA)」に切り替わった。この頃は、気象通報の受信はしていなかったが、映像の受信を行いたくなった。衛星の受信はハードルが高かったが、同級生が気象ファクシミリの受信方法を見つけて来た。同期モーターを使って放電記録紙に出力する受信機を作ることとし、作製に参加した。放電記録紙は銀色の紙で、放電を受けると銀色の皮膜が破壊され、その部分が黒くなる。自作のファクシミリ装置から天気図が流れ出すと、たとえ同期が乱れて日本列島が大きく歪んでいても、感動したものだ。それから数十年を経たが、今でも周回型気象衛星がある。最新の衛星は、この11月にも打ち上げられた。昔は信号の確認だけで、画像情報を再生するところまでは作れなかった。今なら、受信回路を起こさなくても、ソフトウェアに信号処理で受信機を作れる。画像表示も、放電記録紙ではなく、モニター上に行えばよい。正月休みの工作に良いかも知れない。

意外に難しかった音声合成

 冒頭の気象通報だが、現在もNHKラジオで放送されている。海上のようなインターネット接続が無い場所でも確実に情報を送るには、この方法は極めて有効であろう。小型の漁船は揺れの影響を受けやすく、静止衛星を使ったインターネット通信は難しい。低軌道周回衛星(LEO)を使ったインターネットサービスはあるが、小型漁船での利用はコスト的に見合わないと考えられる。そうなると到達距離をある程度稼げる中波放送で、音声によるサービスを行うのは、インターネット時代でも十分に意味がある。

 気象通報の読み上げは、経験を積んだアナウンサーによって行われてきた。しかし、先年、NHK放送技術研究所が、この読み上げを音声合成で行う方式を開発した。「音声合成なんて、PCに入っているから、テキストを流し込めばいいのでないの?」と思ったが、そんなに甘いものではなかった。技研公開の際に尋ねると「20分ピッタリに収めるのは非常に難しいのです」という(写真3)。確かにそうだ。各地の観測情報は多く、アナウンサーの方の大変さは読み上げ方からも感じられた。狙った通りの読み上げ速度を実現するために、テンプレートを元に発声する音声合成に話速変換が組み合わされた。非常に高い音質で、音声合成がなされており、現在の気象通報はこの技術で放送されている。

 その昔、男声を女声に変換する研究があった。これは、女性の深夜労働が禁止されていた時代に男性アナウンサーばかりでは単調となるため、変換により幅を拡げようとの考えだった。男声から女声への変換は不要になったが、声の変換の研究は別の方向に進んでいる。気象通報の例では、音声合成と話速変換と組み合わせることで目的を達成した。声の合成や声質の転換から、時間の制御にまで進んだわけで、ますます「声を自在に操る」ところに近づいた。

00004_image03.jpg【写真3】NHK放送技術研究所の2011年技研公開にて、気象通報の自動読み上げ技術が公開された。
現在は、この技術を基に、読み上げは自動化されている

気象通報用音声認識

ICレコーダには録音機能に加えて、音声の文字化機能を付けて欲しいと思っているが、気象通報を文字化して標示してくれるラジオがあってもいいだろう。ラジオというハードウェアで作るのが大変なら、音声入力を文字化するアプリがあってもよい。AMラジオからケーブル一本でスマートフォンにつないで、そこで文字化する。これなら、気象通報を聴くためにラジオの前にいなくてもよい。後から、文字化された情報を読んで地図を作る。恐らく20分はかからないだろう。

 雑音除去が難しそうで、正月休みの工作とは行かないが、面白そうだ。さて、このアプリで「入電なし」が示されたとき、見た人の頭の中には何が描かれるだろうか。

ライタープロフィール

杉沼浩司(すぎぬま こうじ)
日本大学生産工学部 講師(非常勤)/映像新聞 論説委員
カリフォルニア大学アーバイン校Ph.D.(電気・計算機工学)
いくつかの起業の後、ソニー(株)にて研究開発を担当。現在は、旅する計算機屋として活動中。

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