民生技術の総合祭典として1月にラスベガス(米国ネバダ州)で開催された「CES2018」では、「スマートシティ」が新たなテーマとして急浮上した。これまで、「スマートホーム」は度々CESに登場してきたが、スマートシティは新しい。CESでは、何がスマートシティとされ、どのような事柄が話題になったのだろうか。
スマートシティとの言葉は、5年ほど前から色々な展示会で耳にしてきた。ただ、イベント毎に焦点を当てる方向が違っていて、聞く方は混乱するばかりだった。たとえば、あるイベントでは「行政のペーパーレス化」を実現したら、それは「スマート」だとしていた。別のイベントでは、「街灯に交通流量計と大気汚染センサを取り付けて、交通の最適化」を図れば「スマート」としていた。どの観点から考えるかで認識には違いがあるようだ。
EUではエネルギー効率の向上を目指したスマートシティ構想が以前からあったが、これに交通とICTが組み合わさって、より包括的なスマートシティ構築に向けて進んでいるようだ。米国では、USDOT(米国運輸省)が「Smart City Challenge」なるコンペを行い、交通の改善を中心とするスマートシティ提案を募集した。中規模都市を対象としたこのコンペでは78都市が応募し、7都市が最終選考に残った。2016年6月にオハイオ州コロンバス市の提案が採択され、同市でUSDOTの支援を受けた開発が始まったとされている。
スマートの定義には幅があるが、効率化を目指していることは違いない。では、これに答える展示はなにだったのだろう。
スマートシティ関連の展示は、ウェストゲート・ホテル(Westgate Hotel=旧Las Vegas Hilton)のボールルーム(宴会場)で行われていた(写真1)。LVCCとウェストゲート・ホテルは、恐らく私道であろう道路一本で隔てただけで、往き来は容易い。以前は、このホテルののボールルームでは、携帯電話のアクセサリや自作用PCのパーツといった汎用の部品を扱う企業が並んでいた。これらは、今年はLVCCサウスホールの南に設置されたテント(「Design & Source」エリア)に移動していた。
【写真1】スマートシティ関連の展示は、Westgate Hotelで行われた
会場に着いて驚いたのは、その盛況さだ。人が溢れる、といった状況だった(写真2)。
【写真2】大盛況のスマートシティ・エリア。CESで最も賑わっていた場所かも知れない
人の多さに気圧されながら回ると、ブースにはいくつかの種類があることに気がついた。一つ目は、IoT用の通信関連のものだ。次に、モビリティ(交通・移動)に関係する会社、そして、スマートシティ用のアプリケーションとなる。スマートシティの構成要素が多岐にわたることを象徴した状況だ。
各分野から気になった会社を見てゆこう。
通信関連では、LPWA(Lpw Power Wide Area:低出力での長距離無線方式)で気を吐いているLoRa Allianceが展示していた。世界的に900MHz前後の周波数帯(日本では920MHz帯)を使うものだ。LPWAは、LoRaのように免許不要な帯域を使うもの、NB-IoTのように携帯電話の帯域を使って携帯電話事業者が運営する(つまり、免許を要する)もの、など色々な提案がなされている。スマートシティは、センサから集めた情報を処理するという観点から考えると、情報の通り道である通信路は大切だ。しかも、通信費用が掛からない方式の方が自治体には望ましいだろう。そこを狙ってLoRa Allianceが存在をアピールするのはよくわかる。
【写真3】「IoT用のWAN」と銘打ってLoRa WANを展開するLoRa Alliance
モビリティでは、フランスの「ルーエン・ノルマンディ オートノマス・ラボ(Rouen Normandy Autonomous Lab)」が、同地での自動運転実証事件を紹介していた。ルーエン市では、自動運転車両によるオンデマンド型公共交通サービスを実験している。3つの環状コース(総延長10km)に17ヵ所の停留所を配しており、停留所間の人の移動を自動運転車両が行うものだ。自動運転は、EV(電気自動車)により行われる。民間企業と行政がラボを結成し、今後2年間実験するそうだ。民間からは、車両と運行サービスが提供される。一方、地元行政は、インフラを整備するという。車両を誘導するための対策を道路に行うのに、かなりの費用が費やされるそうだ。ドイツやスイスでも自動運転車両による公共交通の実証実験は、長期間にわたり行われている。自動運転車両に乗りたかったら、欧州に行くのも手かも知れない。
【写真4】自動運転の公道実証実験をアピールするAutonomous Lab.
都市の問題の中でも、発砲事件はとりわけ深刻だ。CESが開催されたラスベガスでも、昨年、乱射事件で多くの犠牲者が出た。この事件の際もそうだったが、どこから発砲し、どこを狙っているかがなかなか分からない。米データブイ(Databouy)社のShotpoint部門が「Shotpoint」の名で展開するシステムは、発砲音の解析から発砲箇所と弾道を瞬時に割り出す。ショッピングモールやオフィスビルでの使用が例示されていた。このシステムは、既存のセキュリティ・システムに情報を送り込み、サイネージへの情報掲示やドアの開閉により避難を支援することも可能という。同社がDARPA(米国防省の国防高等研究計画局)のプロジェクトに参加して軍用に実用化した後に、民生用として展開を始めた。
以前、「怒声を検知したら収録を始める監視カメラ」を見たことがあるが、発砲は怒声どころの問題ではない。都市の犯罪はより深刻化しているようだ。
【写真5】SHOTPOINTの銃声解析システムは、発砲箇所と弾道を瞬時に算出する
世界は都市化がますます進とされ、人口の集中が予想されている。現在でも環境、交通、エネルギー消費、犯罪など都市は多くの問題を抱えている。技術による解決策を展示する場をCESが提供し始めた。この解決作は、ツールとしてAIやIoT、そして自動運転を使うことになるだろう。「AIやIoT主役のCES」ではない。これらは、問題解決のツールにすぎない。いかに巧にツールを使うかで、魅力的な製品、サービスを提供できるかが決まってくる。技術に踊らされず、解決すべき目標をしっかりと捉えることが大切だ。
杉沼浩司(すぎぬま こうじ)
日本大学生産工学部 講師(非常勤)/映像新聞 論説委員
カリフォルニア大学アーバイン校Ph.D.(電気・計算機工学)
いくつかの起業の後、ソニー(株)にて研究開発を担当。現在は、旅する計算機屋として活動中。