COLUMNコラム

2017.12.07

Dr.SUGINUMA

Dr.スギヌマのITランダム・ウォーカー:日本の交通系電子マネーに感謝

 秋のカナダ・モントリオールへ旅行した。モントリオールの緯度は、北緯45度。北海道の稚内とほぼ同じ、つまり、日本の北端くらいの緯度だ。その割には、厳寒ということはなく、「ハロウィンにしては、ちょっと寒い」くらいで済んだ(写真1)

 今回のモントリオール行きは、ITS(高度道路交通システム)に関する世界大会「ITS World Congress 2017」を覗くのが目的。会場はモントリオール国際会議場(Palais des congrès de Montréal)と訳される、市中心部の展示会場。カラフルな外観が目を惹く。現地での移動は、地下鉄を利用した。

ハロウィン当日のモントリオールのレストラン。お祭りの雰囲気が伝わってくる
【写真1】ハロウィン当日のモントリオールのレストラン。
お祭りの雰囲気が伝わってくる

ステルス・地下鉄

 ホテルから会場までは地下鉄の利用が良い、と地図ソフトが教えてくれる。会場と同じ名前の駅があるので、会場が隣接しているのだろうと予想を付けて、いざ出発。ところが、地下鉄駅を見つけられずに困惑する羽目に。ホテルから、地下鉄駅(との表示が出ているところ)まで、住宅地を歩いた。確かに地下鉄を示すアイコン(下向きの矢印)の看板はある。しかし、入口とおぼしきところが見当たらない。よくよく目を凝らすと、小さなドアが2枚あり、ここから人が出入りしている。入ってみると、出入り口からは思いもつかぬような広々とした空間が拡がっており、地下へと続くエスカレータがあった。出入り口が小さく、ドアまでついているのは、寒さ対策だろうか。

 エスカレータに1回乗れば改札かと思ったら、なんと3回も乗り地下深くへと降りる。かなり深く掘られた地下鉄のようだ。地下3階の改札口前に1台、ぽつんと自動販売機があった。さて、ここからが難問。モントリオールはケベック州にあり、フランス語が公用語なのだ。自動販売機の表示を見ても何のことやら。やっと英語表示に切り替えるボタンを見つけ説明を読むと、一回限りの切符を買うか、ICカードにチャージするかを選択できる。ここは、もちろんICカード購入を選択することにしよう。これまで、香港、メルボルン(オーストラリア)、ロサンジェルス(米国)、オランダなどの都市・地域・国家の交通用ICカードを入手している。コレクションに新たなICカードが加わるのもよい。

 カード代(デポジット)は6カナダドル(1ドル=¥91円程度)だから、高いという感覚はない。それよりもカードを見て驚いた。なんと、クレジットカードと同じく表面に電極を持った接触式カードに見える(写真2)。改札口でカードを差し込むのかと一瞬懸念したが、杞憂だった。このカードは、接触式、非接触式の両方の性質を持つカードだった。改札口の「タッチ・エリア」に当てるだけで、無事地下鉄に乗り込めた。接触部分は、利用者が家でチャージする際に使うアダプタが、通信のために使うようだ。

モントリオールの交通用ICカード「OPUS」は、接触式と非接触式のデュアル型だ
【写真2】モントリオールの交通用ICカード「OPUS」は、
接触式と非接触式のデュアル型だ

期待のV2X通信

 さて、ITS World Congress 2017では、交通系インフラを構築する人々が、自動運転やより緻密なMaaS(Mobility as a Service:移動サービスの総称)が見えてきた今、どのようなインフラを用意すべきかに頭を悩ましていた。2020年までに市街地での完全自動運転が実現するとは思えないが、インフラの寿命である30年から100年先をならば実現しているだろう。これから作られるインフラは、完全自動運転車両が利用することになる。一方、今の交通の問題にも対応しなければならないわけで、企画を担当する方々の苦労がしのばれる。

 ITSの世界では、ここ4年ほどは自動運転が話題になっているが、以前は「情報化」が話題の中心だった。道路に埋め込んだセンサから交通量や速度情報を取り出し、それに従って電光掲示板に何を表示するか、といったことが話題だった。ETCもITSの範疇だった。インテリジェンスというよりインフォメーションの「I」が当てはまろう。その後、車車間通信(V2V:Vehicle-to-Vehicle)が話題となった。車両間で位置情報やアクセルやハンドル、そしてブレーキの操作情報を交換して追突防止や死角排除を行ったり、隊列走行を行ったりするというものだ。緊急自動車の接近を無線で報せ、カーナビに表示する、ということも構想されている。日本では、2015年から一部車種に無線通信機能が実装され、主として信号機などから情報を受け取るのに使われている。

 会場では、車車間通信のみならず、信号機などのインフラとの通信までカバーするV2X(Xは"何でも"の意)に対応した車両がデモを行っていた。SPaT(Signal Phase and Timing)と呼ばれる信号機の点灯情報や、先行車の緊急ブレーキ警報が電波を通じて伝達される。点灯情報は、先行車により視界が遮られていても信号の状況がよくわかる。また、信号標示の転換(赤信号→青信号など)までの時間が表示されるため、心の準備も可能だ(写真3)。信号からの転換間隔情報(フェーズ:位相)を用いて、走行速度の調整を指示する機能も一部車両に搭載されていて、停止回数や燃料消費の削減が期待できる。今回のデモでは、緊急ブレーキ警報も運用され、先行車が急ブレーキを掛けるとカーナビに警告とともに距離が表示された(写真4)。昨年のデモでは、距離表示は行われなかったため、機能が強化されたようだ。V2Xは、今後、オートバイや自転車、そして歩行者までとも通信し、より高いレベルの交通安全を実現する。

NXPによるV2Xのデモ。画面右下の信号は、車外左前方に見える信号の状況。17秒後に信号が変わることも示されている 緊急ブレーキ警報の例。この例では先行車(写真中の直前の車)まで10mだが、より長距離でも動作するため、間に車両があっても素早い対応ができる
【写真3】NXPによるV2Xのデモ。画面右下の信号は、車外左前方に見える信号の状況。17秒後に信号が変わることも示されている 【写真4】緊急ブレーキ警報の例。この例では先行車(写真中の直前の車)まで10mだが、より長距離でも動作するため、間に車両があっても素早い対応ができる

 V2Xによる各種サービスは、多くの信号機、多くの自動車にV2X通信機が搭載されることで交通安全や効率向上に大きく寄与すると見られている。問題は、設置台数が増えないと効果が少ないことだ。米国では、米国運輸省(USDOT)が一般車両(新車)へのV2X装置搭載を義務化しようと準備している。既に、法案提出を前提としたパブリックコメント募集まで行われており、義務化は時間の問題と見られる。新車への搭載が義務化されても、自動車の平均使用年数を12年弱(米国2016年調査)とすると、V2X対応車両が過半を占めるまで、長い時間がかかりそうだ。

 自動運転が実現しても、通信機能は求められる。「自動運転時代に不要な技術」ではないはずで、インフラを企画する方々には是非ともこのような安全装備の敷設を進めて欲しい。自動車利用者としては、後付け型(アフターマーケット型)のV2X通信機に期待しよう。

交通系電子マネーはお店で使えるか

 交通とインフラの将来を睨んだイベントの会場を出ると目の前にコンビニがあった。日本へ「カナダからの手紙」としゃれ込もうと、何枚かの絵葉書を手にした。レジでの支払で尋ねると、地下鉄のカードは使えないという。現金払いだったが、面白い事に1セントは、表示はあってもカウントされない計算だった。お釣りが、計算では1ドル9セントとなっても、レジの機械は「1ドル10セント」を表示し、店員さんもその金額を戻す。こんなやり取りをしていたから、1週間の旅行が終わっても1セントは財布の中に残らなかった。

 いや、ポイントはそこではない。交通系電子マネーが支払に使えないことだ。この件について、ITS World Congressの会場で、世界各地で鉄道用料金収受システムを構築している企業の専門家に理由を尋ねた。すると、多くの場合は、法規制が日本のような使い方を許していないか、法に準拠するためには運営事業者に大きな負担が掛かる、との答えだった。日本国外で交通用の電子マネーが買い物に使えるのは、香港のオクトパスカードが有名だが、他ではほとんど聞かない。シンガポールの交通系電子マネーがスーパーマーケットに対応したというので、次に訪れた時に試してみよう。

杉沼浩司(すぎぬま こうじ)
日本大学生産工学部 講師(非常勤)/映像新聞 論説委員
カリフォルニア大学アーバイン校Ph.D.(電気・計算機工学)
いくつかの起業の後、ソニー(株)にて研究開発を担当。現在は、旅する計算機屋として活動中。

トライアル申込み|日本ワムネット

オンラインでのトライアル申込み

PAGE TOP