COLUMNコラム

2017.10.18

Dr.SUGINUMA

Dr.スギヌマのITランダム・ウォーカー:「スプリンター」は快速にあらず

 目の前の速度表示は、時速130kmを越えていた(写真1)。アムステルダム・スキポール空港へ向かうNS(オランダ鉄道)の列車でのことだ。日本のJRは、在来線の最高速度は時速130kmと聞いているから、NSの速度はたいしたものだ。もちろん、この列車、特別なものではない。Amsterdam RAI駅で乗車して、2つ先のSchiphol Airport駅へ向かう、オランダの在来線。座席も、ごく普通のものだ。欧州の鉄道は、在来線でも1等車、2等車の区分があるものも多いが、通勤列車クラスだと、車両の一部を区切って「1等室」としているところもある。乗っていたのも、そんな通勤列車だ。

00001_image01_2.JPG
【写真1】Sprinter車内の速度表示.なんと、時速130kmをこえている

ネットを"抱きしめる"放送業界

 オランダには、電子メディアの展示会「IBC2017」のためにやってきた。IBCといえば、「放送機器の展示会」というイメージも強いけれど、今は放送だ、ネットだと分けている時代ではない。コンテンツを創り、それを配信する。それだけのことだ。ツールとして電波あり、ネットあり、というわけでメディアには関係なく、いかにコンテンツを視聴者のもとに運ぶかが話題となっていた。昨年までは、この展示会では「放送 vs. ネット」的な構図も見られたが、風向きは急展開した。現地で会った関係者は「放送事業者が、ネットをembraceした」と表現し、抱き寄せるジェスチャーをしていた。embraceとは、「採用する」「受け入れる」という意味だが「抱きしめる」との意味もある。acceptでなく、embraceと表現したところに、放送業界がネットに向き合っている姿勢を示しているような気がする。

 IBC2017は、アムステルダム市の南部にある展示会場「Amsterdam RAI」にて開催される(写真2)。ホテルが多いのはアムステルダム中央駅周辺だが、ここと会場の間はLRT(Light Rail Transit:次世代路面電車と訳されるが、一般の感覚としては普通の路面電車。現地での英語呼称はTram)を使うことになる。これが、なかなか混雑するので、ここ10年は空港近くのホテルに泊まり、NSの列車を利用している。

00001_image01_2.JPG
【写真2】Amsterdam RAIで電子メディアの展示会IBC2017が開催された

 NSの列車というと「犬の鼻列車」が有名で、犬の顔を思わせるユーモラスな風貌の先頭車両があった(写真3)。最近、とんと見掛けないのは、なんとも寂しいものだ。代わってよく見るのは、国鉄183系を思わせる顔や、JR九州の885系やドイツのICE 3を思わせる顔など、ある意味で他国と同じ、よく言えば国際標準型の顔つきである(写真4,5)。それでも、NS独特の車体色が「オランダの鉄道だよ」と、小声で主張している。

00001_image01_2.JPG
【写真3】有名な「犬の鼻」は向かい合うとよりユーモラス
(2015年Eindhoven駅にて撮影)
00001_image01_2.JPG
【写真4】旧国鉄の特急列車を思わせる顔つきの列車も見掛ける
00001_image01_2.JPG
【写真5】こちらは、最近各地で見られる「芋虫型」の顔

電子マネーに有効期限

 NSは、2000年代の後半からICカード型の運賃収受システムを導入した。日本のSUICAやPASMOなどの交通系電子マネーに相当するものだが、カードに使用期限があるのが日本と大きく異なる。大体5年後が使用期限になっている。以前購入したカードが、2017年の2月で期限を迎えてしまった。昨年、オランダを訪れた際に現地の知人に「カードの残金は、次のカードに移行できるか」を尋ねたら「できない」とのこと。「私たちも、びっくりしている」と言われて、こちらも驚いた。日本の商品設計で、期限がある上に移行もできない、といった造りをしたら商品としては議論になりそうだ。まあ、5年に一度のことだし、切り替え時に自分が注意して利用すればよい、ということであると理解した。移行の手段を用意しなければ、システム設計はずいぶん楽になりそうだ。割り切りも必要かも知れない。

 NSの改札口はなかなか考えさせてくれる。海外、特に欧州の鉄道は改札口が無いことが多いが、NSは電子マネーの採用に伴い、自動改札を導入した。Amsterdam RAI 駅にも立派な自動改札がある(写真6)。ところが、スキポール空港の地下にあるSchiphol Airport駅には「改札口」が無い。駅に至るエスカレータの端にICカードを当てるためのポールがあるだけなのだ(写真7)。日本では、無人駅などで使われる簡易型の装置に相当するものが、ホーム3面を有する大空港の駅で使われていることに最初は驚いた。この駅は、空港の到着ロビー地下にあり、ロビーから直接ホームに降りる。ロビーで使うエスカレータを間違うと、目的とするホームではない所に降りてしまう。もっとも、そのような事がないようにエスカレータの上には行先表示板があり、次の列車の行先を示してくれている。「エスカレータは、駅の入口に至るのでは無く、ホームに直接つながっている」ということを押さえておけば、間違うことはないのだ。NSの場合、エスカレータの前後に自動改札を置いて人の流れを乱すことは考えられなかったのだろう。列車に乗るときは、ポールのセンサにカードを触れてエスカレータを降りてゆく。列車から降りたときは、地上に出たところでカードを当てる。時々、近くにポールが無いエスカレータがあって、そんな時は近所エスカレータの所でカードを当てることになる。

00001_image01_2.JPG
【写真6】Amsterdam RAI駅の自動改札.ICカード運用開始前
なのか、ゲートは開放されている(2008年撮影)
00001_image01_2.JPG
【写真7】Schiphol Airport駅の改札機は、カードを当てる
だけの簡易型(2012年撮影)

 電子メディアの制作と配信技術の展示会に行って来たのだが、鉄道だけでずいぶん考えることになってしまった。度々乗車した列車の種別は「スプリンター」と書いてあった。英語で言えば「短距離走者」であるから随分速そうだ。快速列車かと思ったが、普通列車の事だった。

杉沼浩司(すぎぬま こうじ)
日本大学生産工学部 講師(非常勤)/映像新聞 論説委員
カリフォルニア大学アーバイン校Ph.D.(電気・計算機工学)
いくつかの起業の後、ソニー(株)にて研究開発を担当。現在は、旅する計算機屋として活動中。

トライアル申込み|日本ワムネット

オンラインでのトライアル申込み

PAGE TOP